密命シリーズ

  1. 舟を編む

                 舟を編む
 2012/6/4読書開始 6/10読破
光文社¥1575

玄武書房に勤める馬締光也は営業部では
変人として持て余されていたが、
新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして
辞書編集部に迎えられる。
個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。
言葉という絆を得て、
彼らの人生が優しく編み上げられていく。
しかし、問題が山積みの辞書編集部。
果たして『大渡海』は完成するのか──。言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをんの最新長編小説。

 

読書ファンの皆さん、今日は〜

 

今日の読書紹介は「舟を編む」。

作者は2006年に「まほろ駅前多田便利店」で直木賞受賞した三浦しをん。

 

タイトルがいいデスネ。”舟を編む”とは何だ?

26ページを読んで解りました。

荒木が馬絞に説明する。

”なぜ、新しい辞書の名を「大渡海」にしょうとしているか、わかるか”…。

”辞書は、言葉の海を渡る舟だ”…。

 

そうです、この本は辞書を作る過程をノンフィクション風に書いた本です。

言葉とは生まれた時から少しづつ言葉を学び、話す、書くと情報手段として

我々は意識せずに使っています。

 

だが、一つ一つの言葉には意味があり、

その言葉を定義するには膨大な血の滲むような地味な作業の上に

辞書が作られる事を。

 

 

主人公の真面目ならぬ馬絞光也は褐コ武書房 第一営業部から

辞書編集部へ荒木公平の引き抜かれて辞書の編纂に当たる。

大学教授を定年退職した松本先生の元で同僚の西岡、契約社員の佐々木さん、

西岡の後任の岸辺等と共に大渡海の完成を目指す。

 

勿論、辞書オタクの馬絞の恋愛物語もストーリーに入っています。

そのさわりを、94ページです。

「顔を上げた香久矢と目が合う。香久矢が楽しそうに笑っていたので、

馬絞も笑った。心臓は限界まで高鳴っていたが、幸いなことに破裂も

機能停止もしなかった。香久矢の顔が近づいてきて……」

後は読んで下さいね。

 

そうですね、最近は辞書を引くと言えば、パソコンですぐwikipediaで検索ですから。

でも、その元は辞書からwikiに流用されていますから、源は同じです。

 

言葉は心、気持ち、思い、考えを相手に伝えるのになくてはならないもの、
目は口ほどに物を言うといいますけど、
やはり言葉で伝えないと相手に伝わらないでしょう。

その言葉の意味を教えてくれる本でした。

 

 本の中で特に気に入った部分は
P203の

辞書づくりに取り組み、言葉と本気で向きあうようになって、私は少し変わった気がする。
岸辺はそう思った。言葉の持つ力。傷つけるためではなく、だれかを守り、だれかに伝え、
だれかとつながりあうためのカに自覚的になってから、自分の心を探り、
周囲のひとの気持ちや考えを注意深く汲み取ろうとするようになった。

岸辺は『大渡海』編纂を通し、言葉という新しい武器を、
真実の意味で手に入れようとしているところだった。

P258の
馬締はふと、触れたことがないはずの先生の手の感触を、己れの掌に感じた。
先生と最後に会った日、病室でついに握ることができなかった、
ひんやりと乾いてなめらかだったろう先生の手を。

死者とつながり、まだ生まれ来ぬものたちとつながるために、ひとは言葉を生みだした。

岸辺が宮本とケーキを食べている。編集部員は接待に徹し、
会場では飲食をしないようにと言ったのに。
楽しそうにお互いのケーキをフォークでつつきあっている。
佐々木は壁際で白ワインの入ったグラスを傾け、
西岡はあいかわらず軽薄な物腰で挨拶まわりを続行中である。

『大渡海』の完成を喜び、だれもが笑顔だ。

俺たちは舟を編んだ。太古から未来へと綿々とつながるひとの魂を乗せ、
豊穣なる言葉の大海を

ゆく舟を。