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生きものたちの部屋 宮本輝

新潮社 ¥1300 1995/6発行

 

私を魔法使いにさせるために最も必要なのは

〈触発〉という感情である。

この感情が湧かなければ、
私のなかの火打ち石は
火花を発しない。

しかも、〈触発〉は、私以外の物によるしかない。

小説を書きだしたころ、

私を触発するものは、ほとんど〈風景〉であった。

ひとつの風景に魅せられると、私はそれを核として

一篇の小説を創りあげることができた。

「川三部作」も、「幻の光」も「錦繍」も、固定して動かないたった一枚の絵とか

写真によって、私のなかで形をとり始め、やがて動きだし、

言葉としてつられていったものである。

私の短篇小説の多くも、一瞬の風景がわずかに肥大したにすぎない。

「西瓜トラック」という短篇小説を書いたのが、

いつごろのことだったのか忘れてしまった。

 ドナウの旅人(上下)
 

夫を捨てて、突如出奔した母・絹子。「ドナウ河に沿って旅をしたい」という母からの手紙を受け取った麻沙子は、かつて5年の歳月を
過ごした西ドイツへと飛ぶ。

その思い出の地で、彼女は母が若い男と一緒であることを知った。再会したドイツの青年・シギィと共に、麻沙子は二人を追うのだが…。
東西ヨーロッパを横切るドナウの流れに
沿って、
母と娘それぞれの愛と再生の旅が始まる。
夫を捨てて、突如出奔した母・絹子。「ドナウ河に沿って旅をしたい」という母からの手紙を受け取った麻沙子は、かつて5年の歳月を過ごした西ドイツへと飛ぶ。
その思い出の地で、彼女は母が若い男と一緒であることを知った。
再会したドイツの青年・シギィと共に、麻沙子は二人を追うのだが…。東西ヨーロッパを横切るドナウの流れに沿って、母と娘それぞれの愛と再生の旅が始まる。  

絹子は娘・麻沙子の説得にも応じず、ドナウの終点、黒海まで行くと言い張る。

絹子の若い愛人・長瀬の旅の目的に不安を感じた麻沙子とシギィは、二人に同行することにした。

東西3000キロ、ヒヶ国にまたがるドナウの流れに沿って二組の旅は続く。

様々な人たちとの出逢い、そして別れ。母と娘それそれの、年齢を超えた愛と、国籍を超えた愛を、繊細な筆致で描き上げた人生のロマン。

新潮文庫 ¥629


流転の海

新潮文庫 ¥590 読書開始 2002/1/1       


敗戦から2年目、裸一貫になった
松坂熊吾は、大阪の闇市で松坂商会の
再起をはかるが、
折も折、妻の房江に、
諦めていた子宝が授かった。

「お前が二十歳になるまでは絶対に死なん」

 熊吾は伸仁を溺愛し、その一方で、
この理不尽で我儘で好色な男の
周辺には、
幾多の波潤が持ち上った、
父と子、母と子の関係を軸に、
個性的な人間たちの
有為転変を力強い筆致で描く、著者畢生の大作第一部。

 

地の星

流転の海第二部


五十歳で初めて子を授かった松坂熊吾は、

病弱な妻子の健康を思って、
事業の志半ばで郷里に引
きこもった。

再度の大阪での旗揚げを期しつつも、
愛媛県南字和の
伸びやかな自然の恵みのなかで、わが子の生長を見まもる。

だが、一人の男の出現が、熊吾一家の静かな暮
らしを脅かす……。熊吾と男との因縁の対決を軸に、
父祖の地のもたらす
血の騒ぎ、人間の縁の不思議を悠揚たる箏致で綴る。


 血脈の火  流転の海第三部

昭和27年、大阪へ戻った松坂熊吾一家は雀荘や中華料理店を始めとして、
次々と事業を興していく。

しかし義母の失踪に妻房江の心労は
つのり、
洞爺丸台風の一撃で大損害を
被った熊吾も
糖尿病の宜告を受ける。

そしてたくましく育つ無邪気な
小学生伸仁にも、
時代の荒波は
襲いかかるのだった……。

復興期の世情に翻弄される人々の涙と
歓びが
ほとばしる、
壮大な人間ドラマ第三部

            

 

天の夜曲

新潮社 ¥2000 読書開始2002/7/20
”父と子”を描くライフワーク流転の海 第四部

昭和三一年春、妻子を富山に置いた松坂

熊吾は、
中古車事業発足のため大阪へ
戻った。

踊り子西条あけみに再会した一夜、彼に

生気が蘇る。

そして事業も盛運を迎えるかに

みえたが……。

だが彼女は顔に大火傷を負い、、事業はやがて裏切りに遭う。

還暦を前にして金策の泥沼に沈んだ熊吾は、妻を大阪に戻し、息子伸仁を

北陸の地に一人残す覚悟を決めた。

商人宿で過す別れの夜、傷ついた一家を、静かな

鈴の如き音曲が包み込む……。


苦闘する父母の情愛を一身に受け、

九歳になった息子伸仁にも新たな試練の日々が訪れ、高度経済成長期に

人った日本の光と闇が交叉する中、波瀾のドラマは新たな胎動を始める。

運命の濁流の中、人は光と闇を見る。作者自らの《父と子》を描く待望の新作!