「箸墓幻想」読後感 2003/4/2
この本を最初に見て今までの一連の“浅見光彦シリーズ”の
推理小説だなぁと思い、本を手に取りました。
例のTVの水谷豊の浅見光彦を頭に描きながら読んでいる内に作者が考古学と
推理小説を絶妙の組み合わせで構成し、今までにない推理小説になっているではな
いですか、一気に読破しました。
プロローグがこの本の全てを暗示しています、
「春浅い大和路を歩く考古学者の小池は思う“卑弥呼と邪馬台国の存在を
証明するために、自分は死ぬのだ」”と。
読み進んでいく内に、
「二上山上に瞑(ねむ)る大津皇子の悲劇と当麻寺(たいま)縁起である
「中将姫」の曼荼羅にまつわる、妖しくも悲しいストーリーだった。」(P60)
と折口信夫の「死者の書」を核に置き、物語は悲劇へと進む。
そうです、私もあの世も、幽霊も亡霊も信じます
古いもの、ある特定の場所には異次元の世界があるのです。
作者も箸墓古墳より盗掘された画文帯神獣鏡に宿る呪いを人間の恋愛感情を
絡めて物語を構成しています。
あなたも大きな木と向き合った時とか、古いお寺の仏像を拝む時、
背中がゾクゾクしたり、頭の中を何かが過ぎるのを感じたことがありませんか。
私はいつも感じます、シックスセンスが働くのです。
話が横道にそれましたが、
「これとこの一通の手紙だけが残されているとだけは確かですね。
そう考えると、どうしてもこの女性が初恋の君であるというストーリーしか
思い浮かばないのです。そう思うのは単純すぎますかね」(P151)
物語は推理小説のパターン通り、残された遺留品から浅見は推測し手掛かりを
求めていく。
そして、浅見は手に入れた情報をもとに、奈良、東京、長野と行動力を発揮する。
この本を特に面白いと感じたのはやはり
古都奈良を中心に物語が展開していることでした。
「あおによし奈良の都は咲く花のにほふがごとくいま盛りなり」(P181)
と随所に古都の風景描写が描かれ、これが人物と良く関連づけて書いてあります。
この本の秀逸なところは作者が一時話題になった、“石器捏造”事件がある前に
このアイデア?を取り入れたことでしょう。
何はともあれ、女性の怨念をテーマに話は展開していくのですが、
「いいえ、本当にそうですのよ。明美ばかりでなく、お若い方のほとんどが、
お年よりは昔からずっとお年寄りで、化石みたいな生き物だと思ってますのよ。
そのくせ、千年以上も昔の大津皇子や額田王のラブロマンスに憧れたりするの
ですから、何を考えているやら、まったくわかりませんわねえ」
真顔で言うので、浅見はどう応じればいいのか、困ってしまった。(P390)
の文章のように登場人物の魅力的な?お年寄りの昔のラブロマンスと奈良の
歴史を絡めた推理小説です。
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