この前寄り合ひ申す衆に咄し申し候は、恋の至極は忍恋と見立て候。
逢ひてからは恋のたけが低し、一生忍んで思ひ死する事こそ
恋の本意なれ。
歌に恋死なん後の煙にそれと知れつひにもらさぬ中の思ひはこれこそたけ
高き恋なれと申し候へば、感心の衆四五人ありて、煙仲間と申され候。
武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。二つ二つの場にて、早く死ぬ
ほうに片付くばかりなり。
別に仔細なし。胸座って進むなり。図に当たらぬは犬死などという事
は、上方風の打ち上がりたる武道なるべし。二つ二つの場にて、
図に当たることのわかることは、及ばざることなり。
我人、生くる方がすきなり。多分すきの方に理が付くべし。若し図に
はずれて生きたらば、腰抜けなり。この境危ふきなり。図にはずれて
死にたらば、犬死気違いなり。
恥にはならず。これが武道の丈夫なり。毎朝毎夕、改めては死に改め
ては死に、常住死身になりて居る時は、武道に自由を得、一生越度
(おちど)なく、家職を仕果すべきなり。
端的只今の一念より外はこれなく候。一念一念と重ねて一生なり。ここに覚
え付き候へば、外に忙しき事もなく、求むることもなし。この一念を守って暮
すまでなり。
皆人、ここを取り失ひ、別にある様にばかり存じて探促いたし、ここを見付け
候人なきものなり。
さてこの一念を守り詰めて抜けぬ様になることは、功を積まねばなるまじく
候。されども、一度たどりつき候へば、常住に無くても、もはや別の物にては
なし。この一念に極り候事を、よくよく合点候へば、事すくなくなる事なり。
この一念に忠節備はり候なりと。
「或人云ふ、『意地は内にあると、外にあるとの二つなり。外にも内にもなきもの
は、益に立たず。たとへば刀の身の如く、切れ物を研ぎはしらかして鞘に納めて置
き、自然には抜きて眉毛にかけ、拭ひて納むるがよし。外にばかりありて、白刃を
常に振廻す者には人が寄りつかず、一味の者無きものなり。内にばかり納め置き候
へ.は、錆もつき刃も鈍り、人が思ひこなすものなり。』と。
佐賀県唐津市の土産。
たこ焼きぐらいの大きさで
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人間一生誠に纏(わずか)の事なり。好いた事をして暮すべきなり。
夢の間の世の中に、すかぬ事ばかりして苦を見て暮すは愚なることなり。
この事は、悪しく聞いては害になる事故、若しき衆などへ終(つい)に
語らぬ奥の手なり。我は寝る事が好きなり。
今の境界相応に、いよいよ禁足して、寝て暮すべしと思ふなり。
(聞書第二)
人中にて欠伸(あくび)仕り候事、不嗜(ふたしなみ)なる事にて候。
不図欠伸出で候時は、額を撫で上げ候へば止み申し候。
さなくば舌にて唇をねぶり口を開かず、又襟(えり)の内袖(うちそで)をかけ、
手を当てなどして、知れぬ様に仕るべき事に候。
くさめも同然にて候。阿呆気に見え候。この外にも心を付け嗜(たしなむ)むべき
事なり。翌日の事は、前晩よりそれぞれ案じ、書きつけ置かれ候。これも諸事人よ
り先にはかるべき心得なり。(聞書第一)
皆人気短故に、大事を成らず仕損ずる事あり。
いつまでもいつまでもとさへ思へば、しかも早く成るものなり。
時節がふり来るものなり。今十五年先を考へ見候へ。さても世間違ふべし。
未来記などと云ふも、あまり替(かかわ)りたる事あるまじ。
今時(いまどき)御用立っ衆、十五年過ぐれば一人もなし。
今の若手の衆が打って出ても、半分だけにても有るまじ。
段々下り来り、金払底すれば銀が宝となり、銀払底すれば銅が宝となるが如し。
時節相応に人の器量も下り行く事なれば、一精出し候はば、丁度御用に立つなり。
十五年などは夢の間なり。
身養生さへして居れば、終には本意を達し御用に立つ事なり。
名人多き時代こそ、骨を折る事なり。
世間一統(いっとう)に下り行く時代なれば、その中にて抜け出るは安き事なり。
(聞書第二)
浪人などして取り乱すは沙汰の限りなり。勝茂公御代の衆は、
「七度(たび)浪人せねば誠の奉公人にてなし。七転び八起き。」
と、口付けに申し候由。成富兵庫など七度浪人の由。起き上り人形の
様に合点すべきなり。主人も試みに仰ぜ付けらるる事あるべし。
(略)就中、武道は今日の事も知らずと思ふて、
日々夜々に箇条を立てて吟味すべき事なり。
時の行掛りにて勝負はあるべし。
恥をかかぬ仕様は別なり。死ぬ迄なり。
その場に叶はずば打返しなり。
これには知恵も業も入らぬなり。
曲者といふは勝負を考へず、無ニ無三に死狂ひするばかりなり。
これにて夢覚むるなり。」(聞書第一)
大酒にて後れを取りたる人数多なり。
別して残念の事なり。
先ず我が丈け分をよく覚え、その上は飲まぬ様にありたきなり。
その内にも、時により、酔ひ過す事あり。
酒座にては就中(なかんずく)気をぬかさず、不図事出来ても間に合ふ様に了簡これあるべき事なり。
又酒宴は公界ものなり。心得べき事なり。」(聞書第一)
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