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好きな詩
 偶成  代悲白頭翁  春眠不覚暁
     
     
     

 

桜の季節になると次の詩を思い出します。

ハラハラと散る花びらを盃に受けながら…・。

 

             勧酒      于武陵(唐代の詩人)

            

            勧君金屈巵

            満酌不須辞

            花発多風雨

            人生足別離

 

 

 君に勧む  金窟巵(きんくつし)

満酌      辞するを須(もち)ひず

花発(ひら)けば    風雨多し

人生      別離に足りる

 

金色の大杯に酒をなみなみとついで友にすすめる。

風雨にあって花が散る定めのように、

人生には別離が待っている。

 

意訳

花が散らない内に、別れが来ないうちに

大いに飲み交わそうではないか。

 

井伏鱒二 訳「厄除け詩集」

コノサカズキヲ受ケテクレ

ドウゾナミナミトツガシテオクレ

ハナニアラシノタトエモアルゾ

「サヨナラ」ダケガ人生ダ


本当に、かっての紅顔可憐の美少年の私も、昔の面影もありません。

でも、今を一生懸命に生きています。

 



偶成

少年易老学難成 

一寸光陰不可軽 

未覚池塘春草夢 

階前五葉巳秋声 

 

朱熹(しゅき)

 

少年老い易く 学成り難し 

一寸の光陰 軽んずべからず 

池塘の春草の夢 未だ覚めやらずして 

階前の五葉 すでに秋声 


朱熹

江戸時代、武士道とともに日本の精神文化に影響を及ばせた

朱子学を大成させた。南宋の学者。



 代悲白頭翁


花の季節になると、色とりどりの花が咲きますが、

花の命は短くて、短い時間に美しく輝いています。

その美しい花を見て思うことは。


 

 代悲白頭翁          白頭を悲しむ翁(おきな)に代わる

 洛陽城東桃李花        洛陽城東桃李(とうり)の花
 飛来飛去落誰家        飛び来たり飛び去って誰(た)が家にか落つ
 洛陽女児惜顔色        洛陽の女児顔色を惜しむ
 行逢落花長嘆息        ゆくゆく落花に逢うて長く嘆息す

 

 今年花落顔色改        今年花落ちて顔色改まり
 明年花開復誰在        明年花開いてまた誰かある
 巳見松柏摧為薪        巳(すで)に見る松柏(しょうはく)くだけて

                薪となるを

 更聞桑田変成海        更に聞く桑田変じて海となるを

 

 古人無復洛城東        古人また洛城の東に無し
 今人還対落花風        今人還(かえ)って対す落花の風
 年年歳歳花相似        年年歳歳花あい似たり
 歳歳年年人不同        歳歳年年人同じからず

 

 寄言全盛紅顔子        言を寄す全盛の紅顔子
 應憐半死白頭翁        憐れむべし半死の白頭の翁
 此翁白頭真可憐        この翁白頭真に憐れむべし
 伊昔紅顔美少年        これ昔紅顔の美少年

 

 公子王孫芳樹下        公子王孫芳樹の下(もと)
 清歌妙舞落花前        清歌妙舞落花の前
 光禄池台開錦繍        光禄池台錦繍を開き
 将軍楼閣画神仙        将軍の楼閣神仙を画(えが)く

 

 一朝臥病無相識        一朝病に臥してあい識るなし
 三春行楽在誰辺        三春の行楽誰(た)がほとりにか在る
 宛転蛾眉能幾時        宛転(えんてん)たる蛾眉(がび)よく幾時ぞ

 須臾鶴髪乱如糸        須臾(しゅゆ)に鶴髪乱れて糸の如し

 

 但看古来歌舞地        ただ看る古来歌舞の地
 惟有黄昏鳥雀悲        ただ有り黄昏鳥雀の悲み


洛陽城(現河南省洛陽市)の東にある桃園の花びらがひらひらと近くの家の

屋根に落ちかかる。
 

いつまでも若さを保ちたいと願う洛陽の若い女性が、

花びらの落ちる情景を見てため息をついた。

 

今年花が落ちればそれだけ年をとり容色も衰える。

来年花が開いたとき誰が生きているだろうか。
 

歳月は速く過ぎる。見事な松柏が枯れて薪となり、

桑畑がいつしか海になることもある。

 

昔、洛陽城の桃の花を楽しんだ人達は既に亡くなり、

今我々が花の散るのを見て嘆いている。
 

毎年美しい花は同じように咲くが、この花を見る人々は毎年変わっているのだ。

 

王侯貴族の子女が満開の花の下に集まり、散る花びらの前で楽しげに歌い踊る。
 

彼らの屋敷は錦布のように美しく、

将軍の楼閣には不老不死を願って神仙が描かれている。

 

若さの盛りにある美少年が、あの白髪の老人はかわいそうだと語りかけてきた。

その通り、この老人の白髪は真に憐れで、

じつのところ昔は紅顔の美少年だったのだ。

 

王侯貴族の子女が年老い病に臥すと誰も尋ねてこなくなる。

あの春の行楽はどこへ行ったのか。女性の美しさは長くは続かない。

あっという間に白髪、やがてその白髪も糸のように乱れてしまう。

 

眼前は昔の歌と踊りの舞台の跡。

今はたそがれ時に鳥や雀が来て悲しげに囀るだけだ。

 


春眠不覚暁


     
     
     
     
     


                     春眠暁を覚えず
                     処処啼鳥を聞く
                     夜来風雨の声
                     花の落つるを知る多少か

                      孟浩然「春暁詩」