この本は読みやすく、スゥ〜と読めました。
古いしきたりが残る小さな島の漁師、
新治(18才)が初江(年齢?)と出会う。
数々の困難を乗り越えて結ばれるまでを、
自然児の少年と少女が、
春から初夏の短い時期に豊かな自然と素朴な島の人々との関係を
通して青年へと成長する過程を作者は暖かい目をもって淡々と
描いています。
作者29歳の作品だそうですが、
ナイーブな表現はもっと若い時の作品に思えました。
誰にでもある青春時代の初恋。
そう言えば私もその年代の頃、淡い憧れをもった人がいました。
その人の名は・・・・。
多感な少年時代、今は遠い昔の話。
この様な感情を思い出すだけでもこの本を読む価値がありました。
…・と自分のこと思い出すのでなく、作者の心情を推察すると解説にも書いてあるように、自分の青春時代の想い出にすべく、この「潮騒」を書いたのでしょうか?
少年の未来を象徴するものとして、
作者は白い船をシンボルとして描いています。前半ではP16に
「水平線上の夕雲の前を走る一艘の白い貨物船の影を、若者はふしぎな感動を以て見た。世界が今まで考えもしなかった大きなひろがりを以て、そのかなたから迫って来る。この未知の世界の印象は遠雷のように、遠く轟いて来てまた消え去った。」
後半ではP163に
「少なくともその白い船は、未知の影を失った。しかし未知よりももっと心をそそるものが、晩夏の夕方、永く煙を引いて遠ざかる白い貨物船の形にはあった。若者は力の限り引いたあの命綱の重みを掌に思い返した。かつては遠くに眺めたあの「未知」に、たしかに一度、新治はその堅固な掌で触ったのである。彼は沖の白い船に自分は触ることもできると感じた。」
これは少年に託した、
作者自身の心象を表現したものではないでしょうか。
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