潮騒
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2001/4/16 読書開始

文明から孤絶した、

海青い南の小島潮騒と磯の香りと明るい太陽の下に、海神の恩寵あつい若くたくましい漁夫と、美しい乙女が奏でる清純で官能的な恋の牧歌。

人間生活と自然の神秘的な美との完全な一致をたもちえていた古代ギリシア的人間像に対する憧憬が、

著者を新たな冒険へと駆りたて、裸の肉体と肉体がぶつかり合う端整な美しさに輝く

名作が生れた。

昭和29年(1954)【29歳】の作。この作品で第1回新潮社文学賞受賞。

 

潮騒 感想文

この本は読みやすく、スゥ〜と読めました。

古いしきたりが残る小さな島の漁師、

新治(18才)が初江(年齢?)と出会う。

数々の困難を乗り越えて結ばれるまでを、

自然児の少年と少女が、

春から初夏の短い時期に豊かな自然と素朴な島の人々との関係を
通して青年へと成長する過程を作者は暖かい目をもって淡々と
描いています。

作者29歳の作品だそうですが、
ナイーブな表現はもっと若い時の作品に思えました。

誰にでもある青春時代の初恋。

そう言えば私もその年代の頃、淡い憧れをもった人がいました。

その人の名は・・・・。

多感な少年時代、今は遠い昔の話。

この様な感情を思い出すだけでもこの本を読む価値がありました。

…・と自分のこと思い出すのでなく、作者の心情を推察すると解説にも書いてあるように、自分の青春時代の想い出にすべく、この「潮騒」を書いたのでしょうか?

少年の未来を象徴するものとして、
作者は白い船をシンボルとして描いています。前半ではP16に

「水平線上の夕雲の前を走る一艘の白い貨物船の影を、若者はふしぎな感動を以て見た。世界が今まで考えもしなかった大きなひろがりを以て、そのかなたから迫って来る。この未知の世界の印象は遠雷のように、遠く轟いて来てまた消え去った。」

後半ではP163に

「少なくともその白い船は、未知の影を失った。しかし未知よりももっと心をそそるものが、晩夏の夕方、永く煙を引いて遠ざかる白い貨物船の形にはあった。若者は力の限り引いたあの命綱の重みを掌に思い返した。かつては遠くに眺めたあの「未知」に、たしかに一度、新治はその堅固な掌で触ったのである。彼は沖の白い船に自分は触ることもできると感じた。」

これは少年に託した、

作者自身の心象を表現したものではないでしょうか。