本の中で特に気に入った部分は
「抱き寄せたいほどに愛らしい兄弟の物語(ミリオンズ)」より
このあたりの事件の面白さについては、私などがくどくど説明する必要なないだろう。
兄弟はもちろん、脇役一人一人にあふれる温かい人間味、小道具の使い方の絶妙さ(特にお母さんの形見、肌色のモイスチャーライザーが印象的)、
P258の
馬締はふと、触れたことがないはずの先生の手の感触を、己れの掌に感じた。
先生と最後に会った日、病室でついに握ることができなかった、
ひんやりと乾いてなめらかだったろう先生の手を。
死者とつながり、まだ生まれ来ぬものたちとつながるために、ひとは言葉を生みだした。
岸辺が宮本とケーキを食べている。編集部員は接待に徹し、
会場では飲食をしないようにと言ったのに。
楽しそうにお互いのケーキをフォークでつつきあっている。
佐々木は壁際で白ワインの入ったグラスを傾け、
西岡はあいかわらず軽薄な物腰で挨拶まわりを続行中である。
『大渡海』の完成を喜び、だれもが笑顔だ。
俺たちは舟を編んだ。太古から未来へと綿々とつながるひとの魂を乗せ、
豊穣なる言葉の大海を
ゆく舟を。
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