カテーテルポート自ら引き抜いて娘に「死ぬよ」
先月膵臓(すいぞう)がんのため死去した作家の吉村昭さん(享年79)の最期は、
無用な治療を拒み自ら死を選ぶ「尊厳死」だったことが明らかになった。
24日開かれた「お別れの会」で妻で作家の津村節子さんが明かした。
「自分の死を決めたことは、彼にとって良かったのかもしれません。でも私は、
目の前で自決する姿を看取った。あまりに勝手な人…」
東京・日暮里のホテルで、あいさつに立った津村さんは、こう嗚咽した。
白い花に囲まれた遺影がほほえんでいる。かつて吉村さんが暮らしたという土地に
立つ会場には、友人、ファンら600人が集まった。
吉村さんは7月31日、東京都三鷹市にある井の頭公園近くの自宅で
息を引き取った。
津村さんによると、前日の30日、点滴の管と、首の静脈に埋め込まれた薬剤などを
注入するためのカテーテルポートを自ら引き抜き、
看病していた長女に「死ぬよ」と宣言。看護師にも「もういいです」と告げたという。
息を引き取ったのは、その数時間後だった。
昨年1月、舌がんであることが判明。今年になり膵臓への転移も見つかり、
全摘手術を受けた。「お見舞いなどで関係者に迷惑がかかる」と公表を拒み、
周囲には「肺炎」「糖尿病」など病名をごまかし続けた。
体調がいい日には書斎にこもり、遺作「死顔」の推敲(すいこう)を繰り返した。
幕末医師佐藤泰然が、高額の薬を拒み、死を選ぶ姿が描かれている。
遺言にも、「延命治療はしない」と記していた。意識は最期まで、あったという。
先月10日、病状が悪化。
入院し治療に望んだが好転せず、帰宅を臨んだ。24日退院。
ヒグラシの声に喜んだ。
「家にいたからこそ、自分の死を決することができた」と津村さん。
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